『林間学校のキャンプファイアー』
 
これは、僕が小学生の時の林間学校の話です。

僕らは当日、会津のとあるホテルに向かいながら、様々な職業体験、川遊びなどを行いました。
見るもの体験するもの全てが目新しく、僕らは夢中になって楽しんだのを覚えています。

そうして様々な場所に立ち寄りながらも、ホテルについた僕たちは、夜のキャンプファイアーまで自由時間となりました。
僕は人一倍はしゃいでいたのもあって、ついウトウトしてしまい、気付けば意識を失っていました。

そして目を覚ましたのは、それから二時間ほど経った後。
まだ眠い目を擦り当たりを見回すと、同室の友人達の姿が見えません。
僕は置いていくなんて酷い! と焦りながら部屋を後にし、キャンプファイアーを行う予定の場所を探しにいきました。
そこはホテルとは目と鼻の先で、どこでキャンプファイアーを行うか聞いておらずともすぐ、そこである事が分かりました。
既にキャンプファイアー用の木は組み上がっており、周りには追加でくべるであろう薪などが置いてありました。
しかし、不思議な事に誰もいません。

僕は焦りから流れてくる涙を堪え、近くで工事をやっていたおじさん達に声をかけました。
「僕ぐらいの子供達を見ませんでしたか?」 そう声をかけた僕に工事のおじさんたちは、「あぶねぇだろ! 出てけ!」と話を聞いてくれず怒鳴りました。
今になってみれば、たしかにその通りだなと思いますが、あの時の僕は置いて行かれた不安や、突然大人の男の人に怒鳴られた事が重なって、思わずその場で泣き出してしまいました。
「おいおい、まじかよ。ごめんな大きな声出して」と、僕をなだめる工事のおじさん。
けれど僕はなかなか泣き止む事ができず、しばらくの間そうしてそこで泣き続けました。

泣き止んだ僕から事情を聞いたおじさんは、「あ~。たしかに子供連れの先生みたいな人が通ったかもしれないな」と言って、あたりを見回し、「お、あれじゃないか?」と指を指します。
すると遠くから、見慣れた友人達と先生の姿が。
僕はあわてて先生達に駆け寄ると、先生達は驚いた顔をします。
「あれ? ○○君。ずいぶん早いのね。どこを近道したの?」
どうやら先生達は、キャンプファイアーの準備が終わったので軽く散歩に出ていた様子。僕は、置いて行かれたことを先生に話すと先生達はさらに驚いた様子で。
「え? だって、出発する前に人数を数えたし、出発するとき君もいたはずだけど……」
先生達は首をかしげながらも、僕の近くにいた工事のおじさんに話を聞くと、「ごめんね。置いていってしまって」と僕に謝ってくれました。

 

そうして、キャンプファイアーが始まりました。
僕らのキャンプファイアーは生徒のうちの四人が火の精霊という役を演じて簡単な踊りなどを皆に披露した後で、火を付けます。
僕と、僕の幼なじみの男の子、そして隣のクラスの女の子達が二人、火の精霊の役をする事になっていました。
僕らは予め打ち合わせされていた踊りを踊り、順番に松明のようなものに火を付けます。
僕の右隣で踊っていた幼なじみも、火を付けてもらい、いよいよ僕の番。
無事、右隣の幼なじみから火を貰う予定だった僕に火を付けてくれたのは、隣のクラスの女の子でした。
(あれ? おかしいな。予行練習では僕は幼なじみに火を貰う事になっていたのに……)
そう思い、右隣にいるはずの幼なじみを見ようとそちらを向くと、そこにいるはずの幼なじみがいません。
不思議に思い当たりを見回すと、何故か僕の左隣に立つ幼なじみの姿。
(順番変わったのかな……)
不思議に思いながらも、僕らは火の付いた松明をキャンプファイアーに投げ入れます。
ぼうと燃え出すキャンプファイアーの火。けれど不思議な事に、隣にいる幼なじみだけ、ぼーっと立ち尽くしていて、松明を持ったままです。
「おい、早く入れちゃえよ」
そう声をかけると、突然幼なじみは今まで見た事の無い不気味な顔でニヤリと笑うと、火をキャンプファイアーに投げ込んで、どこかへ歩いていってしまいました。

そして、その夜。
キャンプファイアーが終わり、ホテルに帰ると、僕らの部屋には幼なじみが寝ていました。
「あれ? どうしたの?」と声をかけると、「散歩から帰ってすぐ具合が悪くなったから、ずっとここで寝ていた」との事。
僕は、「え、だって僕と一緒に火の精霊をやったじゃないか」と声をかけると、「行っていない。ずっとここにいた」の一点張り。
おかしいな。なんでそんな嘘をつくんだろうと思ったものの、旅の雰囲気に浮かれていた僕は、みんなと一緒に少しだけ夜更かしをして語り合い、眠りについたのでした。

 

真夜中、ふと目が覚めてしまった僕は、窓の外を見ました。
巨大な看板がライトアップされており、まだまだ朝は遠いのがよく分かります。
僕は何気なく幼なじみのほうに視線を向けました。
すると、幼なじみの上になにやらもやもやしたものがあります。

それは白いモヤのようなもので、けれど妙に人の形のように見えるものでした。
そのモヤは幼なじみの頭上に、幼なじみをのぞき込むように斜めに覆い被さっており、僕はあまりの恐怖に目を閉じます。
気付かれないように薄目をあけて白いモアを観察していましたが、それは小さく動いている様子でした。
そして、しばらく観察していると、モヤは何事かに気付いたように移動を開始し、僕の方に迫ってきました。

まずいっ! ばれたっ! そう思い目をぎゅっと閉じると、目の前に何かの気配。
僕のことものぞき込んでいるんだ……! そう思った僕は、あまりの恐怖に気絶するように意識を失いました。
翌日、友人の体調不良は嘘のようによくなっており、昨夜見た光景を友人に話すも、ありえない。夢だ夢だと誰も信じてくれませんでした。
結局それ以降は何事もないまま林間学校は続き、二日後、無事僕らは地元に戻る事ができました。

あの時の話を先日幼なじみと話していたら、そんな事もあったな~と笑っていました。
やっぱり夢だったんじゃねーの。と笑う幼なじみを見て、そうなのかもしれない。と思いましたが、一緒に遊んでいた友人がぽつりと言いました。

「そういえば、あのホテル、俺たちが泊まった二年後に火事で全焼したんだよ」と。